木質バイオマス利用に役立つ忘備録です。これは!と思った情報を随時アップして参ります。

2014年5月31日土曜日

灰とその取り扱いを考える(その3) 放射性物質に係る法規制は?

東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い、放射性物質が大気中に放出され、樹木に放射性セシウムが付着しました。不幸にも、これらの樹木を原料とする薪、チップ、木質ペレットに放射性セシウムが含まれている可能性があります。

原発推進とは真逆の立場である木質バイオマス利用が原発による放射能汚染を受けている。皮肉な話ですね。

現在、放射能問題に関しては様々な情報が飛び交っていますが、ここでは木質バイオマス利用の灰に絞って整理していきたいと思います。したがって、放射能の単位等の基礎知識は割愛しますのでご了承ください。今回はまず、灰に含まれる放射性物質に係る法規制を見ていきます。

1 灰の規制と指定廃棄物
実は、規制はシンプルで、焼却灰については環境省が、放射性セシウムの濃度が1キログラム当たり8,000ベクレル(Bq)以下であれば、通常の埋め立て処分をしても差し支えないとする基準を示しており、量目の多寡に関わらず、ひとえにこの基準値(セシウム濃度)以上であるかどうかが問題になります。

8,000Bq/kgを超えた廃棄物は、「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年8月30日法律第110号)第16条~第18条により、環境大臣が指定廃棄物に指定し、国が責任をもって処理することが定められています。(環境省 指定廃棄物処理情報サイト「よくある御質問」)
よく、勘違いされている方がいらっしゃるのですが、8,000Bq/kgを超えた灰が発生したからといって、そのボイラーや薪ストーブの使用者が何か悪いことをしたわけでも何でもなく、ただ単に、「その灰の管理や処分は国が責任を持ちますよ」、というだけの話です。


2 当面の指標値(調理加熱用薪とペレット)
平たく言えば、灰になったとき8,000Bq/kgを超えなければ、事業所であれば産業廃棄物として、ご家庭であれば一般廃棄物として捨てて差し支えないわけですが、この基準を担保するため、調理加熱用薪とペレットについては当面の指標値が林野庁から通知されており、この指標値を超える調理加熱用薪やペレットを流通させてはならない、としています。
なお、指標値の無い燃料チップやバークを燃料とする場合は、最後の灰の段階で8,000Bq/kgを超えなければ良いわけです。

■調理加熱用薪
調理加熱用の薪及び木炭の当面の指標値の設定について(平成23年11月2日付け23林政経第231号林野庁林政部経営課長・木材産業課長通知)
・薪 40Bq/kg(乾重量)
・木炭 280Bq/kg(乾重量)

■ペレット
木質ペレットの当面の指標値の設定及び「木質ペレット及びストーブ燃焼灰の放射性セシウム測定のための検査方法」の制定について(平成24年11月2日付け24林政利第70号林野庁林政部木材利用課長通知)
・ホワイトペレット・全木ペレット 40Bq/kg
・バークペレット 300Bq/kg

薪の指標値についは注意が必要で、それは通知文の題名のとおり、“調理加熱用”に限定されているからです。つまりこの指標値は、ピザ釜など灰が食品に触れる可能性のある薪について定めたもので、40Bq/kgを超えた薪の使用を直ちに禁止するものではありません。暖を取るための薪や、温水を作る薪ボイラーであれば、灰が8,000Bq/kg以下であれば捨てても問題無いのです。
とはいえ、薪を販売する場合は、その薪が何に使われるか定かではないので、40Bq/kgを超える薪は販売しないことが、販売側の責任として一般的な対応となっています。

なお、話が前後しますが、40Bq/kgという指標値は、木材が燃焼して灰分が残ったときの濃縮率をもとに8,000 Bq/kgから逆算した数値です。前回、「灰とその取り扱いを考える(その2) 廃棄物か?資源か?」で、灰の発生量は木材の絶乾重量当り木部で0.5%程度(100%÷0.5%=200倍)である、と記載しましたが、ホワイトペレットの燃焼試験の結果もやはり210倍程度とされ、
8,000 Bq/kg÷210 倍=38.1 Bq/kg≒40 Bq/kg
との根拠によるものです。以下もご参照ください。
木質ペレットの当面の指標値の設定、検査方法等についてのQ&A
調理加熱用の薪及び木炭の当面の指標値の設定について

とはいえ、0.5%という割合は、木材のバークを含まない木部のみが完全燃焼した場合の話で、薪の場合はバークもあり、また、ストーブやボイラーの性能・燃焼条件によって燃え殻(未燃部分)も一定量発生するため、実際には40Bq/kgを超えたからといって必ずしも8,000 Bq/kg以上になるわけではありません


余談になりますが、食品に適用されている100Bq/㎏の基準と、廃棄物に適用される8,000Bq/㎏は混同しないようにしなければなりません。こちらの環境省の通知にあるとおり、ひとことで言えば、100Bq/kgは「安全に利用できる基準」であり、8,000Bq/kgは「廃棄物を安全に処理するための基準」です。

この「安全に利用できる基準」には国や地域によって違いがあり、日本は世界で最も厳しい基準を設けている国のひとつです。食品に厳しい基準を設けることは消費者保護の観点から大切なことですが、一方で、もともと年間摂取量が少ない食品(例えば、山菜やキノコのような季節的な嗜好品)にまで一律に低い基準を適用することは、これらの生産・販売を生業とする産業にダメージを与えることになります。事実、山菜や野生キノコの出荷制限により産直施設の経営に影響が出るほか、しいたけ栽培の場合、地域によっては産業そのものが消滅しています。

その点、農業国であるスウェーデンは、消費者保護はもちろん最優先される一方で、自国の農業も守る観点から、食料品に許容できる汚染の上限をどの水準に設定するかで激しい議論が続けられました。その結果、最終的には「セシウム137に限った許容限度のみ」を規制するとして、
・トナカイ・ヘラジカなどの野生動物の肉や湖沼に生息する淡水魚、野生のベリー、キノコ、木の実は1500Bq/kg
・それ以外の食料品は300Bq/kg
といった基準を設けるに至ったとのことです。
出典:チェルノブイリ原発事故のあとのスウェーデン
又は書籍、スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか

そもそも日本では、福島第一原子力発電所の事故が起きる以前は「安全に利用できる基準」は決まっていなかったのです。要するに、事故が起きると考えること自体がタブー視され、いざ事故が起きてからあわてて学識経験者や消費者代表を参集し、論議する時間も無い中で設定された基準です。非常に冷静さを欠いた状況の中で、自国の農林水産業を維持する観点は置き去りにされた、このことは、食品の多くを輸入でまかなう我が国の「おごり」のように思えてならないのですが、皆さんはどうお考えになりますか?

ところで、8,000Bq/kgの灰はそんなに危険なものなのでしょうか?また、40Bq/kgという指標値に対して実際の汚染はどの程度なのでしょうか?次回以降は、そのあたりを整理してみたいと思います。

2014年5月25日日曜日

灰とその取り扱いを考える(その2) 廃棄物か?資源か?

木質燃料を燃焼させると灰が残ります。灰はアルカリ性が強く、成分は主にカリウムと石灰であるとされ、古くから肥料として活用されてきました。

灰の発生量は、木材の絶乾重量当り、木部では0.2~0.7%、樹皮では2~7%とされています。おおざっぱに、木部で0.5%、樹皮でその10倍と覚えておけば良いでしょう。木材全体では1%弱といったところでしょうか。

なお、以上は純粋に木材だけの話ですので、建築廃材など防腐剤や塗料等が含まれる場合は、肥料としての活用は避けなければなりません。
また、純粋に木材だけを燃焼させた場合も、1)不幸にも放射性物質が含まれる場合や、2)燃焼時の反応で六価クロムが生成される場合もあります。1)2)については次回以降に整理して参ります。

1  廃棄物と資源との境目は?
過去に出された廃棄物関連の法令・通達は量も膨大で内容も複雑です。ここでは、専門のサイトである産業廃棄物適正処理応援サイト「産廃web」のお世話になることにします。このサイトのこちらに「廃棄物の定義と種類」が解説してありますが、これによると廃棄物と資源の違いはひとえに、売買の対象になる有価物であれば資源、売買できない不要物は廃棄物、ということになります。

よく聞かれることですが、ここでの「有価」とは、利用者が運搬料まで含めて有価で買い取ることを意味します。例えば、灰を1トン=1円で有価だと言い張っても、1トンの灰を運搬することを考えると、これは有価物とはみなされません。
このあたりの根拠となる通達は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の運用に伴う留意事項について」厚生雀環境衛生局環境整備課長通達(昭和46年10月25日)によるものです。

なお、発生した灰を自ら肥料などに活用できる場合は、当然のことながら、廃棄物とはみなされません。


2 産業廃棄物と一般廃棄物の違いは?
「廃棄物」は更に「一般廃棄物」と「産業廃棄物」に分類されます。法的には、事業活動によって生じた20種類の廃棄物を産業廃棄物として、それに該当しないものを一般廃棄物としています。灰は、産業廃棄物の種類の中で「燃え殻」に区分されます。

事業活動とは、製造業や建設業に限定されるものではなく、オフィス、商店等の商業活動や、水道事業、学校等の公共事業も含めた広義の概念となります。また、産業廃棄物には量的な規定がないので、個人事業主の事業規模が小さい者から排出される場合や、極めて微量な場合であっても、該当するものは全て産業廃棄物になります。

ですので厳密に言えば、同じ薪ストーブでも、個人宅で使っている薪ストーブから出た灰は一般廃棄物、お店に設置してある薪ストーブから出た灰は産業廃棄物、ということになります。厳密に言えば、です。

なお、法的な区分として、一般廃棄物は市町村に処理責任があるのに対し、産業廃棄物は排出事業者に処理責任があります。法的に取り扱いが異なるため、廃棄にあたっては、市町村等の一般廃棄物用の処理施設での処理・処分することはできないこととされ、産業廃棄物を処理・処分できる許可を受けた産業廃棄物処理事業者へ処理・処分委託することとなっています。

ちなみに、産業廃棄物として灰を処分する場合、最終処分場に埋め立てされるケースがほとんどです。その処分費用として、岩手県のある最終処分場では1トン当り2万円かかります。発電や数千キロワットを超える蒸気ボイラーの運用では、処分する灰の量も年間数百トンになりますから、これらの経費もあらかじめ見積もっておく必要がありますね。


さて以上、一般的な灰の処理や対応を整理しましたが、次回はより深刻な問題、灰に含まれる放射性物質の問題を数回に分けて整理してみたいと思います。

2014年5月24日土曜日

灰とその取り扱いを考える(その1) 避けて通れないもの

あっぱれでしたねぇ、2014年5月21日の福井地方裁判所の判決。

■関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた21日の福井地裁の判決要旨
・原発の稼働は法的には電気を生み出す一手段である経済活動の自由に属し、憲法上は人格権の中核部分よりも劣位
・多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いという問題を並べて論じるような議論に加わり、議論の当否を判断すること自体、法的には許されない
・豊かな国土に国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失

樋口裁判長マジカッコイイ!原告の横断幕にもあったように、「司法は生きていた」のです。胸が熱くなりました。

ところが驚いたことに、判決を受けた菅義偉官房長官は再稼働を進めるという従来の政府方針について、「全く変わりません」と述べた。原子力規制委員会の田中俊一委員長も、「司法の判断について申し上げることはない。我々は我々の考え方で、科学技術的な知見に基づき審査していく」と語った。

政治家であろうがなかろうが、この判決を真摯に受け止める、というのが法治国家に暮らす人間の常識であろう。官房長官をしてこのように語らしめているもの、その背後にあるものは何か?それが官房長官の非人間性を醸成している。
官房長官もお子さんやお孫さんがいらっしゃるだろうに、彼らに対して、いったいどんな説明ができるのだろう。いっそ、お孫さんを原発のある町に引っ越しさせてみるがいい。

そもそも、昨年・一昨年と原発ゼロで夏を乗り切った実績、そして今年も乗りきれる公算なのである。また長期的に見ても今後、人口減少と産業の構造変化、あるいは省エネ推進が確実視される状況であって、さらに夏場のピークはFITで普及したソーラーが賄ってくれるのだから、これ以上、原発を稼働させる必然性など存在しないはずなのだ。
なのに、なぜここまでして原発を推進しなければならないのか?太陽電池を設置しても、その後の電力会社の接続に異常なまでの時間がかかるのはなぜか?電力会社が原発の資産価値をゼロにしたくないという、単にそれだけの理由ではないか?

原発再稼働に躍起になる前に、もっとやらなければならないことが山積している。

しかし、カネと政治の前に、私達はあまりに無力だ。おそらく、大口の電力需要者が「原発の電力は買わない」などとならない限り、この状況は変わらない。ということは、今は何も期待できない、ということになる。

啓発活動を粘り強く継続しつつも、私達は当面、自分にできることに粛々と取組んでいくしかないと考えます。

さて、前置きでほとんど終わってしまいましたが、今回から数回にわたって、木質バイオマス利用の課題のひとつである、残されたもの「灰」の取り扱いについて整理してみたいと思います。具体的には、

1 灰は廃棄物か?資源か?
2 灰に含まれる放射性物質
3 灰に含まれるその他物質(六価クロム等)

この問題、法律要件に関わる部分が多く解釈が難しいところもありますが、以前から整理の必要があると感じていました。また、灰の処理には、放射性物質の問題も深く関わって参りますが、理解しやすくするため、岩手県内の具体的な事例も引き合いに出しながら整理していく予定です。

2014年5月18日日曜日

燃料チップ供給は儲かるか?(その2) 供給事業の実際

前回のチップ化コストに引き続き、原木調達から燃料チップ配送までのコストを考えてみることにします。

チップ工場が燃料チップを供給する場合の流れは、
1 原木購入   ⇒   2 チップ製造   ⇒   3 配送
となりますが、それぞれの単価を見て参ります。


1 原木購入
木材は品質に応じて大まかに、A材=製材用、B材=合板用、C材=製紙チップ用などどランク付けされていますが、実際には、その境界線はあいまいなところがあります。

1本の木を、元の太い側からA材、その次にB材というふうに採っていって、曲がり材や細材をC材として活用する、このようにして段階的に余すこと無く活用することが木材利用では大切なことです。これを、木材のカスケード利用などと称しています。

ちなみにカスケード(cascade)は「滝」と訳されますが、英語で滝にはフォール(waterfall)という単語もあります。フォールが一気に落ちる滝であるのに対し、カスケードは階段状に落ちる滑滝(なめたき)を意味するそうです。なるほど、多段階利用というニュアンスで、言い得て妙ですね。

さて、木材の価格を公表しているサイトはいくつかありますが、今回はポータルサイトである「原木需給.com」から木材価格需給動向素材価格(年計)「素材価格(年計)外材、合板適材、チップ用素材」を見てみます。
ここで、木材チップ用素材価格(単位:1㎥当たり円)針葉樹丸太は、およそ5,000円弱/㎥で推移していることが分かります。
 また、最近の聞取りですが、岩手県内の某バイオマス発電事業者の原木丸太買取価格が7,000円/トン(生トン・工場着価格)との情報があり、生丸太1㎥の重さを0.8トンとすると、容積単価は5,600円/㎥相当と推測されます。

近年のバイオマス需要が高まりつつある状況を考慮し、ここでは原木代5,600円/㎥(丸太・チップ工場着価格)としてみることにします。


2  チップ製造
前回、チップ製造のコスト(一般管理費を含まない)は、

・減価償却を終えている場合、丸太1㎥当りのチップ化コストは約900円/㎥
・減価償却が新たに発生する場合、丸太1㎥当りのチップ化コストは約1,500円/㎥

としていましたが、事業の永続性を考え、ここでは、チップ化コスト1,500円/㎥(丸太換算)を採用することにします。


3 配送
最後は、燃料チップをボイラー利用者に配送します。
様々な運搬手段が考えられますが、ここでは中小規模のボイラー熱需要者を想定して、4tファームダンプ(いわゆる、深あおりダンプ)で配送することにします。・・・深ダンプとは写真のようなものです。
コストについては、またまた岩手県林業技術センターのお世話になりましょう。こちらの研究成果「燃料用チップ供給コストの試算」(平成18年3月発行)のP5から、4tファームダンプのチップ運搬コストは2,912円/㎥(丸太換算・運搬距離30㎞)

ここでは、配送コスト2,900円/㎥(丸太換算)を配送費用としてみることとします。


4 コスト合計・考察
以上、コストを合計しますと、

原木代  5,600円/㎥(丸太・チップ工場着価格)
チップ化 1,500円/㎥(丸太換算)
配送   2,900円/㎥(丸太換算)
(合計) 10,000円/㎥(丸太換算)
・・・配送のほうが、チップ化よりもコストがかかるんですね。

となります。このとき、丸太⇒チップの容積は2.6倍なので、チップ1㎥のコストは、
10,000円/㎥(丸太換算) ÷ 2.6 ≒ 3,846円/㎥(チップ換算)


さて、先に燃料チップの相場をお示ししましたが、ここで、岩手県内の温水プールでの事例ですと、3,951.15円/㎥(チップ換算)となっておりました。この単価は税込み(5%時代)なので、税抜き単価は、3,763円/㎥(チップ換算)となります。
・・・3,846円と比較し、なんと、赤字です(^^;

ただし、温水プールの場合は、
1)一部購入原木もあるが、製材工場の端材を十分に活用
2)チップ化施設は20年以上経っており、減価償却済み
3)チップ工場⇒温水プールまでが至近距離にある
4)大規模な温水プールなので年間通じた一定需要がある
といった条件のもとで、まあなんとか黒字を出している、といった実情かと推測されます。その辺りの実情は、機会をみて現地レポートをしてみたいと思います。

以上のようなことから、燃料チップ供給に取組むにあたっては、1)供給先までの距離が近いこと 2)事業として取組むだけの十分な需要量があること、といった点が大切かと思われます。それでも、じゃんじゃん儲かる、とうわけにはいきませんね(苦笑)

なお、「原木の価格を安くしろ!」というのは、丸太供給に取組む側とすればキビしい話であることはご理解ください。。。

2014年5月17日土曜日

燃料チップ供給は儲かるか?(その1) チップの生産コストを知る

連休の余波で更新をお休みしてしまいましたが、引き続き今回は、燃料チップ供給側の事情を考えてみたいと思います。
なお、ここでは、製紙用チップ工場でのチップ生産を対象として考えます。移動式チッパーは規模もチップの品質もまちまちなので、あらためて考えることにします。

さて、ずばり、チップの製造にはどのくらいコストがかかるのでしょうか?今回は、岩手県林業技術センターの研究成果速報「木質バイオマス利用」にお世話になることにします。

速報のNo.166「製紙用チップ工場における土場残材のチップ化処理コスト」(平成17年7月27発行)を要約しますと、

1 調査及び試算の方法
・ 製造コストは聞き取りにより、修理・整備費、賃金、電気・燃料費、租税公課費、消耗品費等を調べた
・工場が減価償却を終えていると想定した場合と、減価償却が新たに発生する(チップ工場を新規に設置する)と想定した場合の双方を試算
・工場の規模(処理能力)は、1日6時間稼働で約100㎥/日の原木をチップ化、月産約800絶乾トンのチップ製造
・ チップの容積は、丸太材積の約2.6倍になった

2 結果及び考察
減価償却を終えている場合、一般管理費を含めない工場稼働コストは約9万円/日
⇒ 丸太1㎥当りのチップ化コストは900円/㎥
⇒ チップ1㎥当りのチップ化コストは350円/㎥
減価償却が新たに発生する場合 、一般管理費を含めない工場稼働コストは約15万円/日
⇒ 丸太1㎥当りのチップ化コストは約1,500円/㎥
⇒ チップ1㎥当りのチップ化コストは約580円/㎥


なお、このチップ工場の規模を説明しますと、100㎥/日の原木を消費し、800BDt(絶乾トン)/月のチップを生産する、となっていますが、これは、

月間の原木消費量(材積) 100㎥/日 ☓ 20日 = 2,000㎥/月
年間の原木消費量(材積) 2,000㎥/月 ☓ 12月 = 24,000㎥/年

月間のチップ生産量(絶乾トン) 2,000㎥/月 ☓ 0.4(絶乾比重) = 800BDt(絶乾トン)/月
年間のチップ生産量(絶乾トン) 24,000㎥/年 ☓ 0.4(絶乾比重) = 9,600BDt(絶乾トン)/年

といった規模であると考えてください。この規模は、岩手県内のチップ専門工場としては、平均よりやや大きいクラスであると思います。


原木1㎥当り、あるいはチップ1㎥当りの生産コストが分かったところで、次回は原木購入から納入までのコストを追ってみることにします。

2014年5月4日日曜日

「ホワイトベース大槌」の薪ボイラーを見学しました

今回は趣向を変えて、岩手県大槌町にオープンしたばかりの宿泊施設「ホワイトベース大槌」に設置された薪ボイラーの様子をお伝えします。
このカラーリングが「ホワイトベース」の由来らしい、、、
東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた大槌町では宿泊施設が不足、復興工事の関係者は隣の釜石市や山田町から現場に通う状況であったため、大槌町の第3セクター「復興まちづくり大槌株式会社」が宿泊施設の建設を進めていたものです。

この施設の目玉は、なんといってもお風呂の給湯を、地元の「NPO法人 吉里吉里国」(芳賀正彦理事長)の運営による薪ボイラーでまかなっていることでしょう。

しかもこのボイラー(巴商会)は、震災直後に吉里吉里地区の避難所で使われた「薪ボイラー」の再利用なのです。薪ボイラーは震災の年2011年4月〜8月に避難所のお風呂供給に使われた後、NPO「吉里吉里国」が保管していました。

実は、ホワイトベース大槌の建設当初、薪ボイラーの計画はありませんでしたが、宿泊施設ができることを知った芳賀さんが、薪ボイラーの活用を申し出たことにより利用が実現したものです。
貯湯タンクは2トンの容量、1日にこのタンク2回分のお湯を供給する
入浴棟に隣接した薪ボイラー棟
温水の供給量を測定する流量計
この宿泊施設で吉里吉里国は、薪を供給するのではなく、お風呂のためのお湯を売る、言い換えれば熱を供給するスタイルの契約を取り交わしています。したがってボイラーは吉里吉里国が管理し、もちろん燃料には自分たちが準備した薪を使います。

薪風呂は残念ながら男風呂のみです(女性は個室のユニットバス利用)
お部屋は海の見えるビジネスホテル風です

芳賀さんは、「震災直後はガレキの木材から薪を作った。被災者を温めてくれたこのボイラーで、今度は復興のために大槌に来てくれる人たちの疲れを癖やしたい」と話しておられます。

震災に屈することなく、地域の森林資源を「薪」という形で活用し、地域で生きていく術を自ら切り開いていく芳賀さんたちの取り組みに敬意を表するものです。
また、伐採・搬出の技術や薪づくりの指導など、芳賀さんたちの取り組みを支援してくださった皆様に対し感謝申し上げる次第です。

芳賀さんたち吉里吉里国の取り組みは薪供給だけにとどまらず、岩手県林業事業主改善計画の認定を受けて林業の事業体として自立し、さらなるステップアップを目指して取り組みを進めておられます。

こうした芳賀さんたちの取り組みが評価されるとともに、例えば今後、吉里吉里海岸に海水浴や海遊びに利用できる日帰り入浴施設が建設されたとして、その温水供給が地域の薪や燃料チップでまかなわれるならば、森林資源とお金が循環する仕組みづくりに役立つと思うのですが、どうでしょう?

海の見えるステキな日帰り温泉で、ついでに「道の駅」や「薪の駅」を併設してしまうとか?流行ると思うんですけど、やりませんか大槌町長さん!

2014年5月3日土曜日

燃料チップと他の燃料の熱量単価を比較する

前回に引き続き、燃料チップと他の燃料の熱量単価比較をしてみます。

先に燃料チップの熱量単価を算定しましたが、その結果はおよそ下記のとおりであろうかと思います。
2.1円/MJ(税込)・・・中小ボイラー向け、又はFIT認証付き大規模向け
0.7円/MJ(税込)・・・FIT認証無し大規模向け

さて、他の燃料としてここでは、石炭、A重油、灯油、LPガスを取り上げてみます。


1 石炭の価格と熱量単価
今から遡ること40年前、自分が小学校3・4年生で東京の昭島市に暮らしていた頃、小学校の暖房は石炭ストーブだった記憶があります。(しまった!歳がバレてしまいました)あの頃は身近な燃料であった石炭も、今では個人が入手することすら難しくなっています。

そのため、石炭の価格も分かりにくいのですが、石炭はもっぱら大規模向け(発電)ということにして、ここでは東北電力さんの算定根拠資料「燃料費」P12から、
原価織込み石炭CIF価格 10,113円/t

CIF価格とは、運賃・保険料込み条件の価格のことだそうです。発電所の着価格ということですね。

一方、石炭の低位発熱量は、先にお示しした「他の燃料の発熱量を知る」から
石炭(一般炭) 25.1MJ/kg = 25,100MJ/t

∴したがって、石炭の熱量単価は、
10,113円/t ÷ 25,100MJ/t = 0.4円/MJ


2 A重油の価格と熱量単価
A重油の価格は、資源エネルギー庁「石油製品価格情報」の産業用価格(軽油・A重油)から、
平成25年東北地区平均 91.7円/リットル小型ローリー配達

一方、A重油の低位発熱量は、上記と同じく「他の燃料の発熱量を知る」から
A重油 37.1MJ/リットル

∴したがって、A重油の熱量単価は、
91.7円/リットル ÷ 37.1MJ/リットル = 2.5円/MJ


3 灯油の価格と熱量単価
灯油の価格についても、資源エネルギー庁の価格情報の給油所小売価格調査(ガソリン、軽油、灯油)から、
平成25年東北地区平均 1,829円/18リットル(配達) = 101.6円/リットル配達

一方、灯油の低位発熱量は、上記と同じく「他の燃料の発熱量を知る」から
灯油 36.7MJ/リットル

∴したがって、灯油の熱量単価は、
101.6円/リットル ÷ 36.7MJ/リットル = 2.8円/MJ


4 LPガスの価格と熱量単価
LPガスの価格については、一般財団法人日本石油情報センターの価格情報から、
平成25年東北地区平均 30,195円/50㎥

㎥をkgに換算するには、日本LPガス協会のLPガス単位換算表から、ガス1㎥は2.183kgなので、
30,195円/50㎥ = 30,195円/109.15kg = 276.6円/kg

一方、LPガスの低位発熱量は、上記と同じく「他の燃料の発熱量を知る」から
LPガス 47.0MJ/kg

∴したがって、LPガスの熱量単価は、
 276.6円/kg ÷ 47.0MJ/kg = 5.9円/MJ


以上の計算結果を棒グラフにしてみました。
このグラフから概観しますと、
・石炭はさすがに安いです。FIT認証の無い燃料チップはこれに次ぎますが、このチップの価格(相場)が適切かどうかは不明です。
・中小ボイラー向け燃料チップは、A重油や灯油より若干安いランニングコストになります。
・ガスはランニングコストが高く付きます。

実際にボイラー導入を検討する際は、熱量単価(ランニングコスト)だけでなく、ボイラーの初期投資(補助金は使えるのか?)と減価償却(耐用年数は何年か?)、運転に係る人件費、メンテナンスや灰処理などの維持管理費、といったものを算定し、どの燃料を採用するかを総合的に判断することになります。

バイオマス系のボイラーは石油系のボイラーに比べ高価なものですから、基本的には、ランニングコストの差で初期投資の差を埋め合わせていくことになります。ですから、経済性の点からバイオマスボイラーを導入する場合は、相当期間の運用が必要であり、そのことによるリスクもあることは理解しておく必要があります。

ところで燃料チップの供給は、ビジネスとして魅力のあるもの、要するに儲かるものなのでしょうか?次回はこのあたりを検証してみたいと思います。