木質バイオマス利用に役立つ忘備録です。これは!と思った情報を随時アップして参ります。

2014年7月13日日曜日

「ウッティかわいバイオマス発電」を見学しました(その2) 規模や発電効率を知る

労働安全衛生法では、ボイラーは蒸気ボイラーと温水ボイラーとに区分され、それぞれ異なる安全基準や取扱の資格が定められています。
蒸気ボイラーは発電施設だけでなく各種工場の熱源やクリーニング店などの産業用に、温水ボイラーは暖房や入浴施設の熱源などに用いられています。

蒸気ボイラーの出力は「最大蒸発量」で評価されます。これは、最大連続負荷の状態で1時間に発生する蒸発量(kg/h又はt/h)でその能力を示しています。
一方、温水ボイラーの出力は発生する「最大熱量」で評価され、単位はkW(キロワット)で示されることが多いです。
そして、発電所の規模は発生する電力で評価され、単位はkW(キロワット)やMW(メガワット)です。

以下では、「ウッティかわいバイオマス発電」を引き合いに、蒸気ボイラーと温水ボイラーの規模を比較するため「最大蒸発量」(kg/h)を「最大熱量」kW(キロワット)へ換算する方法を整理してみます。これを知っていると、自分が知っているボイラーの出力を思い出せば、計画中のボイラーなどおおよその規模がイメージできるからです。

また併せて、ウッティかわいバイオマス発電の発電効率を推測し、評価してみます。


■最大蒸発量(kg/h)→出力(kW)に換算
蒸気の発生に要する熱量は、圧力、温度によって変わってきますが、ボイラー定格の最大蒸発量は、そのボイラーが実際に給水から所要蒸気を発生させるのに要した熱量を、標準状態における水の蒸発潜熱(2,257kJ/kg)で除したもの、と規定されています。

逆に言うと、 水の蒸発潜熱(2,257kJ/kg)に定格の最大蒸発量を掛けると、そのボイラーが発生する熱量になります。
ウッティかわいバイオマス発電の場合は、
2,257kJ/kg ☓ 28,000kg/h = 63,196,000kJ/h

一方、熱量J(ジュール)と、仕事率W(ワット)との関係式は、
1J = 1W・s
つまり、1Wの出力で1秒間運転したエネルギー量が1Jですから、
1kW・h = 1kJ☓3,600s = 3,600kJ

したがって、最大蒸発量28,000kg/hのこのボイラー出力kWは、
63,196,000kJ/h ÷ 3,600 = 17,554kW

ただし、上記の水の蒸発潜熱(2,257kJ/kg)は近似値ですから、端数など含めますと、

※最大蒸発量(kg/h)→出力(kW)に換算する係数
最大蒸発量(kg/h) ☓ 0.626954 =出力(kW)

ウッティかわいバイオマス発電の場合は、
28,000kg/h ☓ 0.626954 = 17,554.712kW ≒ 17,500kW
暗算するときは、最大蒸発量kg/hの6掛け強の値でkWの値になる、といった感じです。

バイオマスの温水ボイラーには様々な規模がありますが、よく使われるのは小型で200kW程度、大きくて500kW~1,000kWといった規模のものです。発電用の蒸気ボイラーの出力がいかに大きいか、お分かりいただけるかと思います。

とはいえ、これが石炭火力発電所ともなると、ボイラーの出力は数100万kWありますから、バイオマス発電のさらに数十倍はあります。木質バイオマスでは実現できない規模です。


■バイオマス発電所の発電効率を推測する
まず、発電効率の定義です。

バイオマスに限らず、ボイラーによる蒸気タービンの発電では、
①燃料 ⇒ ②ボイラー → ③蒸気タービン → ④発電機 ⇒ ⑤電力

といった流れになりますが、一般的に発電効率とは、「ボイラーに供給した燃料の発熱量」に対する「発電機出力」の比と定義され、正しくは、「発電端熱効率」と言います。
また、供給した燃料の発熱量は、低位発熱量基準で評価するお約束になっています。

さて、上記のボイラー出力換算で、②のボイラー出力が17,500kWであることが判明しています。
また、④の発電機が発生する⑤の電力は、5,800kWであると表示されています。

一方、単位時間当りに投入されるバイオマス燃料の量や発熱量はハッキリしません。そこで推測ですが、①燃料が②ボイラーで蒸気熱に変換される効率を、他のバイオマス蒸気ボイラーの事例などから80%と推測してみます。

すると、①で投入される燃料の熱量は、
17,500kW ÷ 0.8 = 21,875kW ≒ 22,000kW

このときに発生する電力が5,800kWですから、この発電所の発電効率(発電端熱効率)は
5,800kW ÷ 22,000kW ≒ 0.26  すなわち、26%程度(推測)ということになります。

この数値が高いか低いか、ということですが、大型の石炭火力発電所の発電効率が40~43%などとされていますから、さすがにこれと比べれば低いということになります。しかしながら、石炭火力発電所の出力は数十万kWあるのが普通で、発電施設の大型化=高効率という常識からすれば、現状では妥当な発電効率と言えるのではないでしょうか。


■余ったエネルギー(熱)はどうなる?
もっとも、「ウッティかわいバイオマス発電」は発電のみの施設で、その熱を利用することが想定されていません。余った差し引き74%のエネルギーは、熱として周囲に放出されているわけです。そのため、発電施設ではあたりまえのことですが、施設の正面には蒸気を水に戻すための冷却塔がいくつも設けられています。

本当は、冷却塔で冷やす代わりにこの熱を、自社工場の木材乾燥に活かすことができればベターだったでしょう。実際、米マツ製材・集成材で国内最大手の中国木材株式会社・鹿島工場では、隣接地に神之池バイオエネルギー株式会社を設立し、鹿島工場で発生した樹皮や端材を神之池バイオに供給して発電し、その電力と蒸気を鹿島工場の電気と木材乾燥用の蒸気として利用する、という取組みを行っています。さらに、余った電力と蒸気は外部に販売するまで行っている、とのことです。

「ウッティかわい」も本当は、主力の集成材工場に隣接して発電所を建築したかったのだろうとは思いますが、様々な制約があり結局、雫石工場まで西に50km、川井の工場まで東に30km離れた当地に発電所を建築する判断に至ったのであろうと推測します。

なんだか、熱がもったいないですね。木材産業は「木」という重量・容積のかさむ原料を相手にするだけに、できれば、製材・加工とバイオマス利用をひとつにまとめてコンビナート化すると、熱や電気が上手に活用でき、さらに運搬コストも低減できたのだろうと思います。

どうせやるなら、もっと合理的な設備投資ができなかったものか。「ウッティかわいバイオマス発電」の場合も、なにか立地を規制するものがあったとしたら、これを緩和して差し上げることができなかったものだろうか。これが、施設を見学しての素直な感想デス。。。


次回は、「ウッティかわいバイオマス発電」のバイオマス材や燃料チップの受入状況などを整理してみます。

2014年7月12日土曜日

「ウッティかわいバイオマス発電」を見学しました(その1) こんな施設でした

自然エネルギー電力の固定価格買い取り制度、いわゆるFIT法により現在、全国で90箇所にも上る木質バイオマス発電所の計画が進められているそうです。木質バイオマス利用はこれまでもっぱら熱利用でしたが、FIT法で一足飛びに木質バイオマス=発電といった雰囲気になってますね。

岩手県内でもこの4月から、県内におけるFIT認定第1号となる「ウッティかわいバイオマス発電」が稼働しました。先日、この施設を見学する機会に恵まれましたので、その様子をレポートいたします。


まずは、発電施設のスペックです。

■所在  岩手県宮古市区界第4地割
■発電出力  5,800kW(うち、施設内利用800kW)・・・一般家庭の12,000戸分相当(1戸当り3.5MWh/年として)
■ボイラー形式  流動層ボイラー
■実際蒸発量  28,000kg/h(ボイラー出力17,500kW相当)
■蒸気タービン形式  抽気復水タービン
■木質バイオマス使用量  90,000トン/年(うち、自社チップ4.5万トン/年)
■設計・施工  株式会社タクマ


場所はココ。盛岡市から宮古市に入った国道106号線沿いにあります。
見学の際に配布されたシステムフロー図です。

このフローはいわゆるランキンサイクルで、蒸気発電所の最も基本的な蒸気サイクルとされ、(1) 飽和水を給水ポンプでボイラに供給する過程、(2) ボイラで等圧加熱を行い過熱蒸気にする過程、(3) 原動機 (一般には蒸気タービン) で断熱膨張を行なって仕事を発生する過程、(4) 排気が復水器中で等圧冷却されて飽和水となる過程、の4過程から成っています。
システムフロー図ではボイラーの構造が分からないので、メーカーのタクマさんのHPから図を拝借。
ううむ、かえって分からんか(笑)

流動層ボイラーというのは、熱媒体として硅砂(石英の砂)を高温の流動状態に保ち、この中に焼却物を投入することにより瞬時に完全焼却させる焼却装置だそうです。燃焼に必要な空気は砂の下から吹き込まれ、砂は絶えず動いているので燃料は砂とスレ合いながら燃焼、未燃分(灰)を残して完全に燃焼する理屈です。
砂は一定の周期で循環していて、外部に取り出されたときに灰を分離、再び炉内に戻される仕組みです。

蒸気を発生させるのは図に書いてあるたくさんの管で、 この管を水管(すいかん)といいます。管が上部で集合している丸い部分を蒸気ドラム、下部で集合している部分を水ドラムと呼びます。節炭器(エコノマイザー)で予熱された水は蒸気ドラムに入り、ボイラー内の水管を上下するうちに熱せられて蒸気となり、蒸気ドラムからタービンに送られていきます。蒸気になれない水は下部の水ドラムに落ちて、熱せられるごとに水管を登っていくわけです。ボイラー内にポンプのようなものを設けなくても、ボイラー水に自然循環を行わせる上手い仕組みです。

ボイラーは水管が埋め込まれた壁(水冷壁)で覆われていてるので、熱は全て水管に伝わる理屈です。この方式のボイラーを、曲管式水管ボイラーといいます。
タービンを回し終わった蒸気は復水器で冷却されて、再びボイラーに送られ循環します。

ボイラーの種類や構造については、また日を改めて整理することにして、今日は施設の写真など。
施設は、ボイラー棟と発電棟に大きく分けられますが、これはボイラー棟の中の様子です。高さは25m以上あり、複雑な管だらけでよく見えませんでした(苦笑)
排ガスはバグフィルターを通して排出。
発電棟の中の様子。手前の青緑色の箱にタービン、奥のクリーム色の箱に発電機が収まっています。
人の背丈よりも若干高いくらいの大きさで、正直、さほど大きな規模じゃないな、などと思ってしまいました(失礼)

なお、発生する灰は、大船渡市の太平洋セメントさんが引き取っていただいているそうです。放射能検査を逐次に行い、100ベクレル/kg以下であることを確認している、とのことでした。


次回は、この発電所の規模や発電効率を整理してみます。