木質バイオマス利用に役立つ忘備録です。これは!と思った情報を随時アップして参ります。

2014年4月20日日曜日

燃料チップの規格まとめ

今回は、これまで見てきた燃料チップの規格のまとめの意味で、規格が策定された背景、及び規格を普及させるための課題について整理してみたいと思います。


1 規格が策定された背景

これまで国内で公開された3つの燃料チップの規格を見てきましたが、こうした規格が出てきた背景には、業界のFIT法への対応があると思われます。

みなさまご存知のとおり、木質バイオマス利用における日本のFIT法の位置付けは、もっぱら発電事業に的を絞った政策誘導です。バイオマス発電は石炭等の発電施設と比べ小規模ですから、同じ蒸気タービンによる発電方式(ランキンサイクル)を採る限り、一般的に小規模なものほど発電効率は悪くなり、発電した電力量が発生した熱量の20%を下回ることも珍しくないそうです。

ですから、余った(大気中に放出される)熱を何らかの形で利用すべきなのですが、熱は自由に遠くまで運べないため、その需要先の確保が課題となります。

このように、課題の残る現行のFIT法ではありますが、なにしろ使用する木質バイオマスの量が大きく、例えば、木質バイオマスで典型的な5,000kWクラスの発電所が使用する燃料チップは年間7~8万トン、丸太換算で10万㎥にもなるとされています。
岩手県内の年間素材生産量が120万㎥程度ですから、発電所が1箇所稼働するだけで岩手県内の素材生産量の1割近い需要が出現し、しかも、FIT法により価格も保証されているとなれば、チップ供給事業体も本気になろうというものです。

木質バイオマス利用も、温水ボイラーの熱利用が中心だった頃は燃料チップ規格化の話もなかなか前に進みませんでした。なにせ、1箇所当りの需要量がたかだか百トン程度では、1万円/トンとしても燃料の販売代金は年間百万円にしかなりません。小さな需要も数がまとまれば大きな需要になりますが、そうなるまでには、需要が先か供給が先か、いわゆる卵とニワトリの関係がいつまでも続くことになります。

FIT対応により供給サイドの体制が整備されていいき、同時に燃料チップの規格が浸透していくことで、小規模ボイラー向けの燃料チップも納入しやすくなることが期待されます。


2 規格を普及させるための課題

今後、スタンダードとなることが予想される「木質バイオマスエネルギー利用推進協議会」さまの規格を拝見しますと、品質項目は、
1)原料、2)チップの種類、3)チップの寸法、4)水分、5)高位発熱量、6)灰分、7)かさ密度、8)窒素硫黄塩素、9)重金属類、10)異物
の10項目を表示することになっています。

このうち、1)原料、2)チップの種類、3)チップの寸法、7)かさ密度、については、チップを納入する都度調べることが可能であり、調べ方も比較的容易です。

また、6)灰分、8)窒素硫黄塩素、9)重金属類、10)異物については、製造のロットごとに検査することになると思われる項目です。

いっぽう、5)高位発熱量は、4)水分に従って変化するものであり、発熱量は燃料チップ性能の根本であって、水分はボイラーとのマッチングも問われる項目ですから、製造ロットごとではなくチップを納入する都度調べる必要があると考えられます。

燃料チップの価値は、単位熱量当りの金額、すなわち熱量単価で評価することができます。
いま、水分35%(乾量基準54%)のチップが3,500円/㎥で入手でき、チップ1㎥の重さが250㎏だったとします。
水分35%の木材の低位発熱量は(こちらをご参照ください)、
  -0.2326 ☓ 35 + 17.7 = 9.56(MJ/㎏) = 2,287(kcal/㎏) = 2.66(kWh/㎏)
したがって、この1㎥のチップの低位発熱量の総量は、
  9.56MJ/㎏ ☓ 250㎏ = 2,390MJ = 572Mcal = 665kWh
この1㎥の燃料チップが3,500円なので、
  3,500円/㎥ ÷ 2,390MJ/㎥ = 1.46円/MJ = 6.12円/Mcal = 5.26円/kWh
となり、この円/MJ(あるいは、円/Mcalや円/kWh)の値が熱量単価です。つまり、1MJの熱を得るために何円かかるかを示しているわけで、この値が小さいほどランニングコストが安上がりになります。

もし、燃料チップを供給する側がチップの水分を下げる取組みを行ったとします。すると当然、チップの重量は軽くなるわけですが、ボイラーを使用する側が単価を一律に10,000円/トンと決めていたとすると、供給する側の取組みはムダになり、より良い燃料チップ供給の取組みは進展しません。

「木質バイオマスエネルギー利用推進協議会」さまの規格を見ても、原料で4区分、水分で4段階の区分がされています。単位重量当りでも、あるいは単位容積当りで見ても、水分によって得られる熱量に違いがあるわけですから、今後、燃料チップの取り引きが一般化すれば、原料4区分☓水分4段階=16種類の単価があってもおかしくないと思います。

ただし、ここでは問題があって、それは先にお話したとおり、燃料チップの水分をその場で迅速に把握することが難しいということです。水分は燃料チップの熱量単価に直結する因子ですから、この水分を正しく把握し評価することではじめて、需要と供給のフェアな取り引きが成立するものと考えます。

燃料チップの規格を普及させるためには、チップの水分を迅速に測定する手段がぜひとも必要です。計測機器メーカーさまのご尽力に期待したいところです。


さて、今回はランニングコストと熱量単価の話が出てまいりました。そこで次回は、燃料チップの相場を見ながら、他の石油等の燃料と熱量単価の比較をしてみたいと思います。

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