木質バイオマス利用に役立つ忘備録です。これは!と思った情報を随時アップして参ります。

2014年5月31日土曜日

灰とその取り扱いを考える(その3) 放射性物質に係る法規制は?

東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い、放射性物質が大気中に放出され、樹木に放射性セシウムが付着しました。不幸にも、これらの樹木を原料とする薪、チップ、木質ペレットに放射性セシウムが含まれている可能性があります。

原発推進とは真逆の立場である木質バイオマス利用が原発による放射能汚染を受けている。皮肉な話ですね。

現在、放射能問題に関しては様々な情報が飛び交っていますが、ここでは木質バイオマス利用の灰に絞って整理していきたいと思います。したがって、放射能の単位等の基礎知識は割愛しますのでご了承ください。今回はまず、灰に含まれる放射性物質に係る法規制を見ていきます。

1 灰の規制と指定廃棄物
実は、規制はシンプルで、焼却灰については環境省が、放射性セシウムの濃度が1キログラム当たり8,000ベクレル(Bq)以下であれば、通常の埋め立て処分をしても差し支えないとする基準を示しており、量目の多寡に関わらず、ひとえにこの基準値(セシウム濃度)以上であるかどうかが問題になります。

8,000Bq/kgを超えた廃棄物は、「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年8月30日法律第110号)第16条~第18条により、環境大臣が指定廃棄物に指定し、国が責任をもって処理することが定められています。(環境省 指定廃棄物処理情報サイト「よくある御質問」)
よく、勘違いされている方がいらっしゃるのですが、8,000Bq/kgを超えた灰が発生したからといって、そのボイラーや薪ストーブの使用者が何か悪いことをしたわけでも何でもなく、ただ単に、「その灰の管理や処分は国が責任を持ちますよ」、というだけの話です。


2 当面の指標値(調理加熱用薪とペレット)
平たく言えば、灰になったとき8,000Bq/kgを超えなければ、事業所であれば産業廃棄物として、ご家庭であれば一般廃棄物として捨てて差し支えないわけですが、この基準を担保するため、調理加熱用薪とペレットについては当面の指標値が林野庁から通知されており、この指標値を超える調理加熱用薪やペレットを流通させてはならない、としています。
なお、指標値の無い燃料チップやバークを燃料とする場合は、最後の灰の段階で8,000Bq/kgを超えなければ良いわけです。

■調理加熱用薪
調理加熱用の薪及び木炭の当面の指標値の設定について(平成23年11月2日付け23林政経第231号林野庁林政部経営課長・木材産業課長通知)
・薪 40Bq/kg(乾重量)
・木炭 280Bq/kg(乾重量)

■ペレット
木質ペレットの当面の指標値の設定及び「木質ペレット及びストーブ燃焼灰の放射性セシウム測定のための検査方法」の制定について(平成24年11月2日付け24林政利第70号林野庁林政部木材利用課長通知)
・ホワイトペレット・全木ペレット 40Bq/kg
・バークペレット 300Bq/kg

薪の指標値についは注意が必要で、それは通知文の題名のとおり、“調理加熱用”に限定されているからです。つまりこの指標値は、ピザ釜など灰が食品に触れる可能性のある薪について定めたもので、40Bq/kgを超えた薪の使用を直ちに禁止するものではありません。暖を取るための薪や、温水を作る薪ボイラーであれば、灰が8,000Bq/kg以下であれば捨てても問題無いのです。
とはいえ、薪を販売する場合は、その薪が何に使われるか定かではないので、40Bq/kgを超える薪は販売しないことが、販売側の責任として一般的な対応となっています。

なお、話が前後しますが、40Bq/kgという指標値は、木材が燃焼して灰分が残ったときの濃縮率をもとに8,000 Bq/kgから逆算した数値です。前回、「灰とその取り扱いを考える(その2) 廃棄物か?資源か?」で、灰の発生量は木材の絶乾重量当り木部で0.5%程度(100%÷0.5%=200倍)である、と記載しましたが、ホワイトペレットの燃焼試験の結果もやはり210倍程度とされ、
8,000 Bq/kg÷210 倍=38.1 Bq/kg≒40 Bq/kg
との根拠によるものです。以下もご参照ください。
木質ペレットの当面の指標値の設定、検査方法等についてのQ&A
調理加熱用の薪及び木炭の当面の指標値の設定について

とはいえ、0.5%という割合は、木材のバークを含まない木部のみが完全燃焼した場合の話で、薪の場合はバークもあり、また、ストーブやボイラーの性能・燃焼条件によって燃え殻(未燃部分)も一定量発生するため、実際には40Bq/kgを超えたからといって必ずしも8,000 Bq/kg以上になるわけではありません


余談になりますが、食品に適用されている100Bq/㎏の基準と、廃棄物に適用される8,000Bq/㎏は混同しないようにしなければなりません。こちらの環境省の通知にあるとおり、ひとことで言えば、100Bq/kgは「安全に利用できる基準」であり、8,000Bq/kgは「廃棄物を安全に処理するための基準」です。

この「安全に利用できる基準」には国や地域によって違いがあり、日本は世界で最も厳しい基準を設けている国のひとつです。食品に厳しい基準を設けることは消費者保護の観点から大切なことですが、一方で、もともと年間摂取量が少ない食品(例えば、山菜やキノコのような季節的な嗜好品)にまで一律に低い基準を適用することは、これらの生産・販売を生業とする産業にダメージを与えることになります。事実、山菜や野生キノコの出荷制限により産直施設の経営に影響が出るほか、しいたけ栽培の場合、地域によっては産業そのものが消滅しています。

その点、農業国であるスウェーデンは、消費者保護はもちろん最優先される一方で、自国の農業も守る観点から、食料品に許容できる汚染の上限をどの水準に設定するかで激しい議論が続けられました。その結果、最終的には「セシウム137に限った許容限度のみ」を規制するとして、
・トナカイ・ヘラジカなどの野生動物の肉や湖沼に生息する淡水魚、野生のベリー、キノコ、木の実は1500Bq/kg
・それ以外の食料品は300Bq/kg
といった基準を設けるに至ったとのことです。
出典:チェルノブイリ原発事故のあとのスウェーデン
又は書籍、スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか

そもそも日本では、福島第一原子力発電所の事故が起きる以前は「安全に利用できる基準」は決まっていなかったのです。要するに、事故が起きると考えること自体がタブー視され、いざ事故が起きてからあわてて学識経験者や消費者代表を参集し、論議する時間も無い中で設定された基準です。非常に冷静さを欠いた状況の中で、自国の農林水産業を維持する観点は置き去りにされた、このことは、食品の多くを輸入でまかなう我が国の「おごり」のように思えてならないのですが、皆さんはどうお考えになりますか?

ところで、8,000Bq/kgの灰はそんなに危険なものなのでしょうか?また、40Bq/kgという指標値に対して実際の汚染はどの程度なのでしょうか?次回以降は、そのあたりを整理してみたいと思います。

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