木質バイオマス利用に役立つ忘備録です。これは!と思った情報を随時アップして参ります。

2014年6月22日日曜日

放射能汚染の「負の連鎖」を断ち切る(その2) 再生紙工場の苦悩

前回お話した再生紙工場、K製紙の製品は古紙再生100%のトイレットペーパーですので、木材を直接原料として使用しているわけではありませんが、収集した古紙を溶解・脱水する過程で必要な熱源としてバークボイラーを40年以上にわたって使用してきました。K製紙がバークを燃料として買い取ってくれるおかげで、地域のチップ工場や製材所はバークの処理や再利用に頭を悩ませることなく、安心してチップ生産や製材に取組むことができたといえるでしょう。
福島第一原発事故の後、立木のバークに付着したセシウムが灰に濃縮されることを、事前に理解し対応できた事業体は少なかったと思います。K製紙の対応を時系列で整理すると次のようになります。

■K製紙の対応の経緯
1)H23.3 セメント工場への灰の受入れが不可となりK製紙の場内で保管を行う。
2)H23.6 灰の放射性物質濃度を測定、15,000ベクレル/kg程度の汚染を確認する。
3)H23.7 燃料のバークに付着したセシウムが原因と判断、バークを制限し建築廃材を購入
4)H23.9 保管している灰について県へ報告書を提出。
5)H24.1 8,000ベクレル/kg以上の灰を指定廃棄物に登録する手続きを開始。
6)H24.5 環境省東北地方環境事務所の現場視察を受ける。
7)H24.7 保管していた灰について指定廃棄物の指定を受ける
8)H24.8 環境省の指導を受け所定の方法により指定廃棄物の保管(工場外の敷地)を開始。
9)H25.6 保管場所を工場内の敷地(屋外)に変更。
10)H25.12 保管場所を製品倉庫(屋内)に変更。

いやはや、K製紙にとっては災難としか言いようがありません。

バークの受入を制限しその不足分を建築廃材にシフトした結果、その後は指定廃棄物となる灰は発生していませんが、それでもトータルで275.8トンの指定廃棄物となる灰が発生してしまいました。
この数量は、環境省の「指定廃棄物処理情報サイト」の指定廃棄物の数量に示されています。このうち岩手県の数量の「その他」を見ると275.8トン(平成26年3月31日時点)と記載されていますが、この数量は全てK製紙から発生した指定廃棄物ということになります。
ちなみに、岩手県の欄の「焼却灰」とある193.1トンは全て市町村のゴミ焼却施設から発生した指定廃棄物です。したがって、岩手県内の民間事業体で指定廃棄物の指定を受けたのは、K製紙ただ1社ということなのです。
実のところ、8,000ベクレル/kg以上の廃棄物は、K製紙以外のところにも存在します。指定廃棄物となることを恐れて測定を避ける事業体がある中で、いかにK製紙がこの問題に真摯にかつ実直に取り組んだか、お分かりいただけるかと思います。

K製紙が被った被害は多岐に渡りますが、整理しますと、
1)安価なバーク燃料から建築廃材にシフトしたことによる燃料費の増大
2)セメント工場の原料であった灰が、産業廃棄物となって処分費用24,000円/トンに増大
3)灰をはじめ、ばい煙や周辺環境などの放射線測定経費と手間
4)指定廃棄物の保管のための経費や工場敷地、はては製品倉庫まで保管場所に取られる。
5)地域住民から不安視され、工場の立ち退き運動が起きる寸前まで追い込まれる。

上記の1)から3)までは、東京電力に掛かり増し経費の請求を行っていますし、また、4)については環境省から保管に要する経費の補填を受けていますので、金銭的には一応の解決を見ていますが、こと5)に関しては地域の民間企業として極めて厳しい局面に立たされました。

というのも、地域住民の一部には従前からこの工場が出すばい煙や騒音(いずれも規制をクリアしている)を快く思わない方々も居たのです。そして、こうした方々を背景に某市議会議員がこの指定廃棄物問題を騒ぎ立て、はては県の某○○振興センター所長からは「木質バイオマス利用は指定廃棄物の増大につながる、行政として推進できない」などとする見解まで飛び出す始末で、こうした動きに追い詰められたK製紙は、「ボイラーも40年近く稼働し老朽化していることだし、この際、重油ボイラーに切り替えたい」などと、すっかり弱り切った状態になっていました。

しかし、K製紙のような真摯で実直な企業が不当に立ち退きを強いられて良いはずがありません。そのためK製紙は平成25年10月に、環境省東北地方環境事務所や県・市の関係者の同席による地域住民説明会を開催し、その中でこれまでの経緯をありのままに説明し、理解を求めることを行ったのです。

住民からは、厳重な保管状況などから数値上は安全性に問題が無いことが理解されたものの、「地域住民への周知が遅い!」との不満の声が上がりました。
しかし、同席した環境省東北地方環境事務所の責任者から、「周知の遅れは我々環境省側の指導不足にあり、K製紙に責任は無い、どうかご理解いただけないか」と、最後は環境省側が泥をかぶってくれたおかげで、なんとか住民の理解を得て、現在も継続的に放射線量をモニタリングしながら操業している状態です。

もし、K製紙が操業停止や撤退、あるいはバークボイラーを使用しないことになれば、地域のチップ工場や製材工場はバークの行きどころが無くなり、ただでさえ採算性の厳しいこれら木材関連の事業体に悪影響が及ぶところでした。
といっても、現在でもバークの受け入れ制限は続いており、バーク燃料を納めているチップ工場にはいまだにその悪影響が及んでいる状況です。

次回は、このチップ工場に及んだ負の連鎖を整理してみることにします。

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