木質バイオマス利用に役立つ忘備録です。これは!と思った情報を随時アップして参ります。

2014年6月29日日曜日

放射能汚染の「負の連鎖」を断ち切る(その3) チップ工場の危機

前回お話した再生紙工場K製紙は、大小6つの製材所・チップ工場からバークを燃料として購入していましたが、このうち最も多くバーク燃料を納めていたW林業の対応を追って見ることにします。

標題の「負の連鎖」についておさらいしますと、
事故前は、チップ工場のバークが木質バイオマス燃料として、
バーク(チップ工場) → バークボイラー(再生紙工場) →  灰(セメント工場)
と滞りなく流れていたものが、放射性物質の影響により、
1)セメント工場が100Bq/kg以上の灰の受け入れを中止
2)再生紙工場のバークボイラーの灰が8000Bq/kgを超え指定廃棄物に
3)バークの汚染が原因と判明、再生紙工場がバークの受け入れを制限
4)受け入れ制限されチップ工場の行き場のないバークが場内に滞留
5)バークの滞留が3000トン(推定)に及び、チップ工場の稼働が危機に陥る
といった「負の連鎖」が生じたものです。

このチップ工場W林業は、チップ原料用の丸太取り扱い量が年間約3万トン、バークの発生量は年間約2,400トンバークは素材丸太の約8%)といった規模の工場です。
発生したバークはこれまで、家畜の敷料(最終的には堆肥になる)及びK製紙のボイラー燃料で、およそ半々ずつ販売されていました。

しかし、福島第一原発の事故後に、K製紙からの指摘を受けてバークの放射線量を測定したところ、丸太の産地やロットによってバラつきはあるものの、およそ500~800ベクレル/kgの汚染が確認されました。
このことにより、バークは家畜の敷料として出荷ができなくなり(堆肥の基準は400ベクレル/kg以下)、また、上記4)の受け入れ制限によりK製紙のバーク燃料の買い取り量は半分になりました。

W林業も他に受け入れ先は無いかと必死に探しましたが、放射性物質を帯びたバークの引取先などあるわけも無く、1年近くあれこれ探したり悩んでいる間にバークは次々に堆積し、ついには3,000トン近くが工場内に堆積することになりました。これによりW林業は、

1)山積したバークが原料の丸太の置き場を圧迫し業務に支障
2)高く積み上がったバークが発酵熱により発火するおそれ
3)汚染物質を堆積していると地域住民から苦情が出るおそれ
4)廃棄物処理が不適切であると保健所から処分されるおそれ
5)敷料やバーク燃料として販売していた利益の損失
といったリスクが急激に高まり、やむを得ず、市役所にその窮状を訴えることになりました。

このうち、5)の販売利益は諦めたとしても、3)の苦情や4)の行政処分を受ければ会社の存続が危うくなります。
また、2)の発酵熱による発火というのは本当の話で、これは火災原因のうち自然発火に分類されるものですが、バークやチップを屋外に集積した場合、内部に雨水等が徐々に溜まり微生物による発酵熱を生じ、その発酵熱の蓄積に伴う自然酸化により発熱・発火に至ることがあるのです。一説には、堆積する高さが5m以上になると、特に夏場は危険であると言われています。
なお、丸太の場合は、内部に雨水が溜まることは無いので、積み上げても自然発火の心配はありません。

事例:発電所敷地内で集積・保管していたチップ材の火災について

このため、堆積したバークは早急に処分する必要があったのですが、引き取り手が無いとなると、有価物(資源)であったはずのバークが産業廃棄物扱いになり、その処分費用は、最寄りの「いわてクリーンセンター」の場合「木くず」に分類され、処理費用は10kg当り90円、これが3,000トンともなると、
90円 ☓ 1,000kg/10kg ☓ 3,000トン =  2,700万円
にも膨れ上がり、これに運搬費用もプラスされるとなると、W林業にとっては廃業するか夜逃げするかといったレベルです。

W林業はその後、行政の指導を受けながら、東京電力の福島原子力補償相談室と協議を重ねた結果、処分費用については満額、販売利益の損失についても一部、補償を受けることになりました。
ただし、東電から処分費用が支払われるのは、処分を開始してからその金額を精算した約半年後となるため、多額の処分費用の立て替えも容易なことではありません。ここでは、国(林野庁)が被害を受けた製材事業体のために用意した無利子資金を運用することで、現在も処分を進めながら、なんとか事業を継続している状況です。

バーク燃料を購入しているK製紙にしても、バークに代えて購入している建築廃材の価格が高く、品質も供給も不安定であるため、早く元のようにバークを買い取りたいのですが、指定廃棄物をこれ以上増やさないためには当面、バークの買い取りは制限せざるを得ない状況が今も続いています。。。

0 件のコメント:

コメントを投稿